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GⅠメモリアル ~2005年 菊花賞~
気付けば京都行きの新幹線の切符を手配していた。
仕事があったわけではない。前々から行くと決めていたわけではない。それでもやっぱりあの馬の走りを生で見たい。そんな強い欲求が、勝手に自らの体を動かした。
プライスレス。
まさに、お金で買えない極上の瞬間をこの目におさめるために、その場の空気を全身で感じるために、少ない身銭をはたいて淀を目指す自分がいた。
第66回菊花賞。ディープインパクトの三冠達成がかかった世紀の一戦の目撃者にどうしてもなりたかった―――。
「好きな現役競走馬は?」と聞かれると非常に困る。すぐに名前が出てこないからだ。かつては追っかけのようなことをしたり、横断幕を作って応援したりした馬もいたけれど、競馬にかかわる仕事をするようになってから、特定の馬をひいきにすることはほとんどなくなった。
競馬に対する熱意が冷めたわけではない。仕事として接しているうちに感覚がマヒしてきたわけでもない。知らず知らずのうちに、「コイツが好き」といえる馬ができなくなってしまったのだ。単に年をとって「好き」という言葉に対する恥ずかしさが芽生えたからかもしれない。
しかし、過去を振り返って「おそらくあの馬が好きだったんだろうな」と思えることならある。「好き」と口にしたことはないけれど、無意識のうちに好きになってしまっていたことに、あとから気付くような馬。それはすなわち、なにがあろうとレースのたびに競馬場に行って直に走りを見たいという気にさせてくれた馬なのではないか。
猫も杓子もというのはあまり好きではない。できればミーハーファンとは一線を画したい。そういう思いは持っている。でも、自分の気持ちにウソはつけない。
ディープインパクトのことが好きでした。いや、大好きでした。いまならハッキリそういえます。
あの日の京都競馬場は、かつて体験したことがないくらい混雑していた。スタンドの中も外も、人、人、人。売店はどこも大行列。ここはホントに淀なのか! 旅打ちの醍醐味はB級グルメ巡り♪なんてふだんはウキウキするものだが、正直それどころではない。この日は食事をとることをあきらめた。
アイネスフウジンのダービーも、オグリキャップのラストランも、その場でリアルに体験した。ただただ、すごかった。異常だった。入場者数では、これらにはとうてい敵わない。でも、この日の京都競馬場には、体感的にそれに匹敵するような心地よい圧迫感があった。
大観衆のなかに真のディープファンはもちろんいる。お祭り好きも大勢詰め掛けていたと思う。そして、口には出さないけど実は好きという、隠れディープファンもたくさんいたはずだ。
おお、同志よ。
たぶんベテランファンにその手合いは多かったんじゃないかな。「人気馬なんて面白くねぇ」とか憎まれ口をたたきながらも、内心その馬の魅力にとりつかれてしまっている。そんなオッサンはけっこういたと思うのだ。「強い馬による強い競馬が好き」というのは競馬ファンの普遍思考。ディープインパクトはその圧倒的なパフォーマンスで、枯れた馬券オヤジたちの心をもひきつけた。
本馬場入場に備え、報道関係者席の一角に腰を据える。すると、何台ものカメラが下からこっちを向いていることに気付いた。
ん? 俺はなにもやってねぇぞ……。
キョロキョロ周囲を見回す。すぐに状況が理解できた。3列か4列後ろの席に、ディープインパクトを管理する池江泰郎調教師が座っていたのだ。京都競馬場は厩舎関係者席と報道関係者席の境目があいまい(というかなきに等しい)ので、時としてこういう状況が発生する。自分はまったくの部外者だけど、その短い距離感が胸の高鳴りを加速させた。
池江の表情は心なしか硬かった。それは無理もない。出遅れようがなにしようが、ふつうに回ってきたら勝てる。でも、落馬等のアクシデントはいつ起こるかわからない。「無敗の三冠」というプレッシャーが、百戦錬磨の名伯楽の背中にも重くのしかかっているように見えた。
そんな人間の思いはどこ吹く風。ディープインパクトは強かった。いつも通りの競馬で、あっさりと最後の一冠もものにしてみせた。
場内からは万雷の拍手と歓声。鳥肌が立った。
後ろを振り返ると、相好を崩した池江が関係者の握手攻めにあっていた。近くにいたほぼ全員が立ち上がり、池江に拍手を送っていた。恐れ多いことは承知ながらも、いてもたってもいられずその輪に加わらせていただいた。ほんのちょっと、涙がこぼれそうになった。
最終レースが終わり、スタンドをあとにする。すり鉢状のパドックの階段には、座り込んで余韻に浸る、多くのファンの姿があった。
京阪淀駅上り方面ホームの改札を通り抜けるのに30分以上かかった。
近鉄丹波橋駅の切符売場は信じがたいほどの行列を成していた。
でも、並んでいる時間はあまり苦にならなかった。周囲がみんな、興奮しながらディープの話をしていたから。
語り継ぎたいレースは多々存在する。しかし、レースも含め、時空そのものを語り継ぎたい1日というのはなかなか現れない。第66回菊花賞が行われたこの日は、当然後者である。
往復の新幹線の切符は安い買い物だった。心の底から、来てよかったと思えた1日だった。まったくもって照れくさいんだけど、これだけはいわせていただく。
ありがとう、ディープインパクト。
クサくてもいい。ベタでも構わない。でもね、ホント、それに尽きるのである。(文中敬称略)
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