最新競馬コラム

GIメモリアル ~スプリンターズS 2010年への序章~

 657

GIメモリアル ~スプリンターズS 2010年への序章~ | コラム | ウマニティ

GIメモリアル ~2005年 スプリンターズS

 なんじゃこりゃ……。
 その馬を間近で見た瞬間、思わず口からもれてしまった。周囲に人がいたのにもかかわらず、である。それくらい、衝撃的だった。
 2003年12月、香港はシャティン競馬場での出来事である。
 本当にサラブレッドなのか? 別の品種ではないのか! そう疑いたくなるほど、その馬の馬体は際立っていた。デカい。ゴツい。威圧感に満ちている。とにかくすげぇのだ。書き手としてもうちょっと気のきいた表現を使いたいところだけど、いい言葉がなかなか出てこない。すげぇ。それがいちばんしっくりくる。

 筋骨隆々の馬はよく重戦車と表現される。当時はそう思った。コイツは重戦車だと。でも、いまになってよくよく考えてみると、戦車よりもバスのほうがイメージに合う。だって、戦車は横長で、バスは縦長だ。バスのほうが、なんとなく馬の形に似ている。そしてその馬は、本当にバスを思わせる、いかにも頑丈そうな四角い馬体をしていたのだ。幼稚園の送迎用のマイクロバスではない。軍隊とかが使っていそうな物々しいバスだ。
 サイレントウィットネス
 その存在感は噂通り、いや、噂以上のものがあった。

 サイレントウィットネスは目の前で香港スプリントを制した。ロケットスタートを見せるもいったん控えて2~3番手で折り合い、残り200mあたりからラストスパートをかけて後続を振り切った。すげぇ! 1000mのスプリント戦で「テンよし、中よし、終いよし」をやりやがった。南ア史上最強スプリンターと呼ばれるナショナルカレンシーを、まさか子ども扱いにするとは。
 とんでもないものを見た。一撃で、サイレントウィットネスの虜になった。と同時に、ひとつのことを心に誓った。
 日本に遠征してきた際には絶対にこの馬の単勝を買うと。

 サイレントウィットネスはその後、無敗の連勝街道を突っ走った。勝利のたびに、香港ジョッキークラブのサイトであきれるほどの強さを確認し、パソコンの前でにやけたものだ。そして2005年、ついに日本に乗り込んでくることが決まった。それまでスプリント路線一本に絞っていた陣営は、秋のブリーダーズカップマイル挑戦を見据え、安田記念に参戦することを表明したのである。

 香港における安田記念の前哨戦・チャンピオンズマイルで、サイレントウィットネスは初めて負けた。デビュー以来の連勝記録は17でストップした。敗因は、初のマイルという距離と、抑えのきかない気性の激しさに求められた。
 熱狂的なファンにとっては、この上なく残念な敗戦。そのニュースを知り、映像を見たときはため息がこぼれた。しかし次の瞬間、心の中で握りこぶしをつくった。負けたとはいえ、レース内容は悪くない。終始引っかかり通しでの僅差2着。もう少し折り合いがつけばマイルは問題なくこなせる。そう思ったからだ。
 馬券的にはおいしくなった。
 安田記念がよけい待ち遠しくなった。

 中間に陣営から回避が発表されるも、その後撤回され、予定通り安田記念に出走してきたサイレントウィットネス。単勝オッズは8倍台を示している。香港では元返しに近い配当が当たり前だった馬が8倍台。これは事件だ! そして、千載一遇のチャンスだ! もちろん初志貫徹でいきました、単勝に。
 結果はまぁ、仕方がない。強さはじゅうぶんに示してくれたけど、3着では馬券は当たらない。現実は素直に受け止めよう。でも神様お願いします。サイレントウィットネスが大好きなのです。もう一度この馬の馬券を買いたいのです。また日本で走らせてあげてください……。

 祈りは届いた(妄想)。サイレントウィットネスは、約4カ月後に日本に戻ってきたのだ。舞台はスプリンターズS。1200mはこの馬の縄張りだ。マイルとは違う。前回のようなことはない。単勝でリベンジだ!
 って、今度は2倍か……。
 そりゃあ、みんなわかっている。スプリント戦なら巻き返せる、ということを。馬券下手の自分でもわかるくらいなんだから、単勝も売れるわけだ。でも、買うと決めたからには買う。配当が安くても、信念を貫くことが大事なんだ。迷うな。万張りだ。

 行け!
 最後の直線では思いっきり声が出た。坂下で一瞬モタつくような仕草を見せたときはヒヤッとしたが、サイレントウィットネスはスプリント戦で「テンよし、中よし、終いよし」ができる馬だ。
 ここからが強い!!
 もっと大きな声が出た。そして、やっぱり強かった。ラスト1ハロンでグイともうひと伸びした。ゴールした瞬間、小さくガッツポーズをつくった。信じる者は救われる―――とはちょっと違うかもしれないけど、香港での自分の見立ての正しさが証明された気がして、なんだかとてもうれしかった。
 2005年のスプリンターズSは、いわゆるベストレースではない。“ベスト満足したレース”。個人的にはそんな位置付けでとらえている一戦なのである。


※写真は、香港で「がんばれ!」という意味の応援旗

 ナイス!(24

もっと見る 

このコラムへのコメント

TERAMAGAZINE|2022年9月29日 21:34 ナイス! (0)



デビューからチャンピオンズマイルで負ける(2着)まで17連勝

TERAMAGAZINE|2022年9月29日 21:31 ナイス! (0)

加油!!

サイレントウィットネス
Silent Witness(精英大師)

https://db.netkeiba.com/horse/result/1999190018/

関連競馬コラム

新着競馬コラム

人気競馬コラム

会員登録(無料)でできること

レース情報

今週の注目レース

4月28日()
天皇賞(春) G1
4月27日()
青葉賞 G2
ユニコーンS G3

⇒今週の番組表へ

先週のレース結果

4月21日()
マイラーズC G2
フローラS G2
4月20日()
福島牝馬S G3

⇒先週の番組表へ

総賞金ランキング
JRA競走馬総賞金ランキング
4歳以上
1 ドウデュース 牡5
102,726万円
2 スターズオンアース 牝5
84,098万円
3 リバティアイランド 牝4
74,444万円
4 ディープボンド 牡7
67,569万円
5 ジャスティンパレス 牡5
65,388万円
6 シャフリヤール 牡6
59,685万円
7 タスティエーラ 牡4
57,005万円
8 セリフォス 牡5
49,313万円
9 ジャックドール 牡6
49,004万円
10 ソールオリエンス 牡4
48,668万円
» もっと見る

3歳
1 ジャスティンミラノ 牡3
27,482万円
2 ステレンボッシュ 牝3
21,547万円
3 ジャンタルマンタル 牡3
18,666万円
4 アスコリピチェーノ 牝3
16,854万円
5 コスモキュランダ 牡3
15,392万円
6 シンエンペラー 牡3
11,128万円
7 コラソンビート 牝3
9,942万円
8 エトヴプレ 牝3
9,644万円
9 スウィープフィート 牝3
9,386万円
10 レガレイラ 牝3
8,278万円
» もっと見る